Letter from JunkoHarada


黄色い、ライ麦畑で
あなたはひさしぶりに畑のむこうからやってきて、
黄色い海に立った
わたしは麦畑の脇の小屋であなたを待つ
黒いコートを羽織って、転がるようにあなたは来て
わたしも一緒に転がって、風と麦が泳いだ

あなたが去ったあと、
わたしは密かに録音していたフィルムを巻き戻す

そこには太陽と黄昏のあいだの絨毯の黄色が、
風にたなびいていた


あれは、光
身体を夜の外気に晒したくて、外に出た
空をみてたら流れ星をみた

ペルセウスあたりから
カシオペアに流れていった

十月だからオリオン座流星群とおもう
そっか、気付いたら、オリオンもそんなところにいる季節なのね

星は時を刻んでいる
わたしだけが向きも変えないで、佇んでいたのね

夢は急がされている

星は帰ろうとしている
帰れない 一人 を残して


2020年10月7日
ほとんど眠れぬまま、朝6時過ぎに家を出て、
府中の警察署で学科試験を受け、
ようやく、免許取得できました
この半年、コロナ禍のなか、ずっとひとりで山に登っているような気分で
時間だけが静かに過ぎてゆき、
木々の色や花の香りが移り変わっていって
わたしはなにに向かっているのか、
ただその先に進むということの意味だけを胸に、山に登ってきた気分で
そしてきょう、すこしだけ山からの景色を、一瞬だけ、みれたような、
けれどこの地点が答えではないので、ただまだ山に登ってゆくだけなんだ

それでも、この三か月、力を注いだこと、
会って教えてもらったことは
わたしのこれからの糧となるだろうという小さな確信がある


2020年10月5日
きのうは三ヵ月通った教習所の卒業検定でした
緊張して朝ごはんも食べれずいたけれど、
検定車に乗って路上に出るとき、
八月に何度もやり直しになったときの担当教官が偶然わたしを見つけて、
拳で胸を とんとんって叩いて、( 頑張れ )って、遠くからメッセージ送ってくれた
わたしも頷いて、ちいさく拳みせて、出発した

運転しながら、失敗ばかりで、
自分の欠陥や年齢を気にして精神的にきつかった八月の頃や、
心の在り方を客観的に分析し、励ましてくれた幾人かの教官の言葉が走馬灯のように甦り、
胸がいっぱいになった
泣きそうになるのを抑え、
なんとか冷静に、焦らず、検定を終えて、無事に合格し、卒業できました

帰りにお世話になった教官に直接お礼を言いたかったけれど、
会えなかったので手紙を書いて、事務の方に渡してきました

一期一会
そして、
いくつになっても人から学ぶことは尊い

とくに、年齢を重ね、同じ仕事を長くしていると、
経験で視野や思考が固まってしまう
会う人も好みで限られてくる

認知、判断において、
自分の欠陥とむきあい、訓練したような三ヵ月
心と身体(操作)の最善のバランスを探り、予想し、保つのはスポーツのようだと思った
リバウンドしないように、
他者の目で、自分の心をみてゆこう

来週、警察に行って学科試験に受かれば免許交付です
あともうすこし

家に着いて爆睡したあと、
野菜の定期便が届いていので、
山梨竜王の特産の八幡芋のお味噌汁を作り、はじめてまともなご飯を食べました


王国Ⅱ

夜に濡れてゆく
硝子玉の音いろ

鈴虫たちが
銀の環を潜り
いのちが土に頬よせる

泉団地行きのバスが通り過ぎれば
野放図な蔦が彼らの王国を孕む

重すぎる未送信の手紙の
耐えられない存在の軽さ

涙すら流れない虚無

裸足に触れる
星疼く夜

虫たちのマルチチュード


王国Ⅰ

夜は蝉たちの王国

噎せかえる闇
嗚咽する夏

‪19時、
‬ コインパーキングのネオンサインは海を指す
汗まみれの腕
涙とおなじ辛さの泡

髪をほどいて波を歩く

暗闇をみると絵を描きたくなるのは
黒がまぶしいから

蝶を捕まえてみたら
口紅だった
久しぶりに化粧をして、踊った

朝の葉にぶらさがった亡骸
三日月形のゆりかご

水たまりに蹲る
白と黒のきみ

ゆりかごは
まだ微かに揺れている

波音のとどかぬ
貝の螺旋のおくのおくで祈る

どの光も途切れぬように
揺れつづけて


2020年8月12日水曜日
猫よ、きみの背中に羽根を授ける
灼熱のアスファルトで火傷しないように

ちいさなちいさな羽根つけて
誰もいないところへゆこう


2020年8月3日日曜日
公園でユーフォ。

太陽で灼けつけられ
音で流され
さらに空っぽ


2020年7月26日日曜日


一瞬の太陽

雷雨



すべておなじ時間

ここに、いるわたし、ここに、いないわたし
胸と背中はどうじに濡れる

2020年7月20日月曜日

降りつづける雨に
時を刻む針も溶けて
振り子は揺れるのをやめた
街は蝋でかためられ
眠れぬ遺跡となった

あぁいつか
あなたと
あの境界のうえを歩きましたね

数えてはならない時間のなかで
わたしは青林檎を石に乗せて
あなたは赤林檎を頭に乗せた

ちいさな芽にすら笑いながら
樹の名をつけた

わたしは時間を手にしたくて
林檎に口づけして追放された

いまは
淡水魚たちがとおりすぎてゆきます

ここまでは
波はとどきません
あなたが線を引いたから

流れは蝋で息をとめ
雨滴すら真珠のよう

これはわたしの粒
なにの粒でしたか
記憶を失いましたが
ひかるまで
待ちます

時間をやめた
距離のなかで


2020年7月12日日曜日
まだ悲しみがあるので、
未来のことだけをかんがえた。
車の教習所について調べた。来週、申し込みにいこう。

ベランダの果実たちが色づいて、
そのときだけ、うれしい。
トマト、本気で大きくなってくれてありがとう。
あしたの朝、いっこ、摘もう。
そう決めたら、あしたがすこし、たのしみになった。


2020年7月4日土曜日
愛と憂い。
どちらも背合わせ

ことばにすらできなくなってきたので、
わたしはただ、
緑でいたい。

支配の競争に巻き込まれたくない。

六月に摘んだドクダミ。
乾かしてお茶にしたみたら、なんて美味しいの、、。
すぐに飲み切ってしまいそう。
慌ててまた摘みにいった。
でも花の咲きはじめにもっと摘んでおくのだった。
この城壁からはしばらく出られない。
壁を貫いてくれるとおもった音楽は、、、
バルコニーを開けて、ただ待っている。


2020年7月1日水曜日
かなしいことや、しんどいことが続くのだけど、
きょうから7月

7月は誕生月なので、
いちにち、いちにち、その日の天使をみつけてゆきたい

息してゆきたい


2020年6月28日土曜日
きょうは朝から豪雨で、カタツムリの日。
こころのなかが朝から渦巻き、蓋をしていたことばが溢れる。
きのう夜、路地と人で百本の蝋燭の熱を浴びたからかしら。
こどものころ、あんなに怖かった怪談より、
いまは、現実や、ひとの言葉の裏の、こころのほうが怖い。
学生の頃、ドストエフスキー研究の清水先生が、
「原田君、世の中でいちばん怖いものは、人間のこころだよ」
って、幽霊みたいな顔で話していた言葉を思い出す。
ほんとうにそう。
愛がひとを闇に堕とすこともある。
わたしはひとにぶつける石は持ちたくない。
けれど、怒りはもう隠さない。善人のふりはしない。
石の顔をしよう。せめて、嘘のないように。

雨が、わたしのこころに潜む、邪の熱を流してくれたならよいけれど。


2020年6月13日土曜日
こんにちは、原田淳子です。
とてもひさしぶりに、手紙をかくことにしました。
わたしより、いまここを読んでくださっているあなたへの手紙です。

きょうは朝から雨のなか、路地と人の空調工事に立ち合ってきました。
昨年9月に購入したばかりなのに、
暑くなってきたところで冷房が壊れてしまって、
展示中の作家さんには辛いおもいをさせてしまっていたのだけど、
ようやく修理のめどがたち、
きょうも豪雨で途中作業が止まったり、
二転三転いろいろありましたが、ようやく直って、ほっ。
雨の中、業者さんのぼやきキャラのおじさん(ECD似)、ありがとうございました。
ついでにビールやジンジャエールの飲み物も仕入れて、すっきり。

いちにちのすべきことを朝からして、
午後はもう蜘蛛になってふわふわしていたかったけれど、
ドアの修理をしたり、掃除をしたり、、
けれど、夕方は散歩にでて、ようやくひと息。
さいきんは仕事が忙しくても、いちにちに一度は散歩するようにしている。
あの、空白の4月、5月に街を歩いていたみつけたもの、あのときの辛さ、寂しさ、
それをなんとなく、覚えていたいから。
あの空白がゼロ、はじまりになっている。
気付いたらもう6月もはんぶん終わっていて、焦る。
でも目の前の世界で、動けないなかでも、
身体から糸を吐き出して、
あの、雨でも光る、蜘蛛の巣を、じぶんの場所で、つくってゆくしかない。
過去のテーブルには、もう、熱を配さない。
そこには誰もいない。
虚ろでも、危うくても、未来という透明なものにむかうしかない。
蜘蛛のように、ふわふわするために。